現代のストレスフルな生活の中で、心と体をリフレッシュするための方法としてサウナが注目され、いわゆる "ととのう" のために多くの方がサウナに足しげく通っています。
しかし一部のサウナ愛好家は "ととのう" に依存してしまい、無意識のうちに "ととのう" を追い求めてしまっています。 そんな「ととのい難民」の愛好家たちへ贈る、新たなサウナの入り方が禅的なサウナ浴が「サ禅」です。
サ禅とは、サウナと歴史ある仏教の「禅」のマインドを組み合わせた新しいリラクゼーション法です。この記事では、サウナと仏教の親和性、サウナ浴「サ禅」のやり方と効果を解説していきます。 |
サウナと仏教の歴史
サウナと仏教は無関係のように思われますが、一説には日本のサウナの起源はお寺であるといわれています。
約1400年前、仏教が大陸より日本に伝来した際に、仏教と共に蒸風呂の文化が伝わったとされています。
当時のお寺では僧侶や民衆が大きな釜で水を焚いた蒸気浴で身を清潔に、心をととのえており仏教の布教にも使われたそうです。
世界最古の木造建築でもある「法隆寺」にも創建当初は大きな浴室があったとされ、現在でも奈良の「興福寺」には蒸風呂として使われていた「大湯屋」(重要文化財)が残っています。
また「温室経(うんしつきょう)」(正式名称「仏説温室洗浴衆僧経」)というお釈迦様が僧侶に蒸風呂を推奨するお経も伝わっており、歴史を紐解くと実はサウナと仏教には密接な関係があったのです。
“いまここ”と親しむ「サ禅」
昨今のサウナブームは「ととのう」という言葉がキーワードとなり、盛り上がりを見せました。しかし次第に"ととのい"も穏やかになり"ととのわない"と感じる方も増えてきました。
またサウナ愛好家の中では"ととのう"を追い求めるあまり、それが逆にストレスになってしまうことも。
そこでサウナに仏教における「禅」の教えを組み合わせた「サ禅」で“ととのう”を忘れ、本来の心地よいサウナ浴を楽しみましょう。
サウナ浴「サ禅」のやり方と効果
「サ禅」の心構え
・「いまここ」を親しむ
私たちは何もしていない時も無意識のうちに、ここにないものを考えてしまいます。
「あの仕事、違うやり方があったかも」「サウナの後のビールが楽しみ」などなど
自分が考え事をしてしまっていることに気づいて、”いまここ”のサウナを楽しんでみましょう。
・比較や良い悪いの判断をしない
「サウナの湿度が低い」、「水風呂がぬるくてととのわない」、「ととのい椅子が少ない」等、自分の好みと違うと不満が出てしまいます。また良かった施設の体験と比較してしまいがちですが、各々のサウナをあるがままに親しむのがサ禅のマインドです。
・他者に慈悲(配慮)の心をもつ
“いまここ”に集中しすぎると周りが見えなくなってしまいます。プライベートサウナや個室のサウナなど例外はありますが、サウナ施設は公共の場であることが多いので他者の迷惑や施設の運営の妨げにならないよう心がけましょう。
「サ禅」の実践法
・サウナ室
サウナ室では、脚を組み姿勢よく坐禅スタイルで座ります。脚を上げることで温度差を縮め、身体全体で熱を感じることができます
。静かなテレビのないサウナを選び、身体にあたる熱や汗を感じながら「いまここ」に親しむことが大切です。
僧侶が目からの情報を最小限に抑えるためにおこなう、壁を向きで座る「面壁(めんぺき)」も有効です。さらに「面壁」は暑さに弱い顔を守りながら、温まりにくい背中で熱を受けることができます。
・水風呂
サウナの後は水風呂でのサ禅を実践します。
入水前には屈んで小さくなり、丁寧に掛水で汗を流します。
水しぶきを最小限に抑え、他者への配慮を忘れずにおこないましょう。
入水中は身体のまわりを包む冷たい水の温度を観察し、「いまここ」に集中します。
水風呂から出る際は、足の裏の感覚や手すりをつかむ感覚を観察しながら、ゆっくり丁寧に出ましょう。
外気浴の前にタオルで身体についた水滴をすべて拭います。
水分が残ったまま外気浴をすると身体が気化熱によって冷えてしまいます。
他人の身体を拭くように一滴残らず丁寧に拭きあげましょう。
・外気浴
水風呂後の外気浴では、出来るだけ良い姿勢での休憩を心がけます。
姿勢を正すことで「姿勢反射」が作用し自律神経系を正常に調えます。
休憩中は呼吸、手先や足先など身体を観察し、「いまここ」を味わいましょう。
しだいに身体にあたる風や揺れる木々さえもありがたく感じることができます。
「サ禅」の効果
・適切な発汗を促す
姿勢が崩れていると自律神経系の働きが鈍くなり、正常な発汗に影響を及ぼします。
正しい坐禅の姿勢で気持ちよく汗を流しましょう。
・全身を均等に温める
サウナ室は足元と頭の温度が10℃以上違う場合があります。身体全体を均等に温めるためにも足を組むとよいでしょう。
・呼吸がしやすくなる
坐禅の足の組み方で股関節がストレッチされている状態は身体の構造上、腸腰筋に繋がっている横隔膜が下がり肺を大きく使えることで呼吸が深くなります。
・雑念が減り思考が鮮明になる
「サ禅」の一連のルーティンをおこなうことで、脳のアイドリング状態である「デフォルトモードネットワーク(DMN)」を沈め、思考が鮮明になります。
「サ禅」をサポートするアイテムの紹介
「サ禅」で使うことができるサウナグッズを紹介します。
適切なものを使うことで、より快適に「サ禅」に取り組むことができ姿勢や集中をサポートしてくれます。
・ZAF SAUNA / SAUNAⅡ
僧侶が坐禅を組む際に用いられる「坐禅布団(ざぜんふとん)」をルーツにもつサウナ用瞑想クッション「ZAF SAUNA」シリーズはサウナでの姿勢をととのえるのに最適です。
抗菌防臭加工が施されており、自宅の洗濯機で丸洗いすることができます。
・サウナハット
サウナの熱から頭を守るサウナハットですが、深く被ることでまわりの情報を減らす効果もあります。少し大きめの自分にあったサウナハットを選びましょう。
「サ禅」を実践できるサウナ施設の紹介
・サウナタロトヤマ(富山県・富山市)
セルフロウリュが楽しめる「北欧サウナの家」をテーマにしたサウナ施設。
サウナ好きのためのシンプルな導線、富山の新鮮な地下水の水風呂が人気です。
全国でも珍しい実際のお坊さんによる「サ禅」のレクチャーを受けられるイベントを開催しています。またイベント時には照明を落とし坐禅堂をイメージした特別な「サ禅サウナ」を体験できます。
・品川サウナ(東京・大井町)
何もしない時間、スマホやパソコンを見ない時間=「浮世離れ」をテーマにしたサウナ施設。
禅的な世界観の「空-KUU-」と「禅-ZEN-」の2種類のサウナは座面が広くあぐらや坐禅スタイルに適しています。都心では珍しい広い外気浴スペースも特徴の一つです。
・SAUNA ZEN(東京・恵比寿)
禅をテーマとした個室サウナ。落ち着いた空間と考え抜かれた導線のプライベートサウナです。混みあっているサウナが苦手な方や、一人で「サ禅」を楽しみたい方におすすめのサウナ施設です。
まとめ
サ禅は、サウナと禅の要素を組み合わせた新しいリラクゼーション法です。サウナ室内、水風呂、外気浴のそれぞれのステップで「いまここ」に集中し、心と体をリフレッシュさせることができます。ぜひ、日常のストレスから解放されるために、サ禅を取り入れてみてください。
参考文献・資料
『入浴・銭湯の歴史』中野栄三 雄山閣
『風呂と日本人』筒井功 文春新書
奈良・興福寺「大湯屋」(重要文化財)
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